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京都大学総合生存学館(思修館)に「自治」はあるのか??

京都大学新聞』(怪しくない方です)に「​総合生存学館 運営に全研究科が参画へ 学館長を総長が「指名」」​(2022年7月16日)という記事がありました。詳しくは2022年6月28日の京都大学達示55号によります。

記事によると、変更点は主に以下の通りです。

1,「これまで学館の教授会の議にもとづき総長が任命していた学館長を、全学的な審議機関である教育研究評議会の議を踏まえ、総長が「指名」するようになる」。

2,「学館長には京大の専任の教授に加え、副学長も就任可能になる」。

3,「学館長が指名する副学館長は、これまで学館の教授から選ばれていたが、変更後は他部局の教授も指名できるようになる」。

4,「予算や人事といった重要事項を審議する機関として、「協議会」が新設される。協議会は学館長・副学館長に加え、他研究科の研究科長なども加わって運営される。全研究科が学館の運営に参画することになる」。

より分かりやすくは、​京都大学の令和4年度達示第55号の新旧対照表​をご覧ください。 (法律論議は本当に苦手なのですが少し考えてみようと思ったので、記事を書いています。)

おそらく1が一番大きなポイントではないでしょうか。総合生存学館を含む「研究科」のトップは「当該研究科の教授会の議を踏まえて、総長が任命する」(国立大学法人京都大学の組織に関する規程第16条2項。以下「京大の組織に関する規程」とする)ものです。教授会の議を踏まえるのは各学部も同様です(京大の組織に関する規程第26条)。

しかし2023年4月1日からは、教授会の議を踏まえてトップが選任される「研究科」から総合生存学館が適用除外されるようです。すなわち、総合生存学館の学館長は、「京都大学の副学長又は専任の教授のうちから総長が教育研究評議会の議を踏まえて指名する」(京都大学大学院総合生存学館の組織に関する規程第2条第2項(2023年4月1日より施行))そうです。私には「任命」と「指名」の違いはよくわかりませんが、記事も指摘するように、総合生存学館内で選任されていた学館長が教育研究評議会の議を踏まえて総長が「指名」するようになったことです。

その教育研究評議会の構成は以下の通りです。(国立大学法人京都大学教育研究評議会規程)

第2条 教育研究評議会は、次の各号に掲げる評議員で組織する。

(1) 総長

(2) 総長が指名する理事

(3) 総長が指名する副学長(命を受けて校務をつかさどる副学長に限る。)

(4) 研究科長、総合生存学館長、地球環境学堂長、公共政策連携研究部長及び経営管理研究部長

(5) 研究科(次号に定めるものを除く。)の教授 各2名

(6) エネルギー科学研究科、アジア・アフリカ地域研究研究科、情報学研究科、生命科学研究科、総合生存学館及び地球環境学堂の教授 各1名

(7) 附置研究所の長

(8) フィールド科学教育研究センター、生態学研究センター、学術情報メディアセンター及びヒト行動進化研究センターの長

(9) 国際高等教育院長

(10) 附属図書館長

この中に総合生存学館の枠はわずか1名です。是非はともあれ、学館側にとっては大きな権限の縮小です。

因みに理事自体は「総長は、理事を任命するに当たっては、学外者が2名以上(学外者が総長に任命されている場合にあっては1名以上)含まれるようにしなければならない」とのことです(京大の組織に関する規程第3条5項)。

うがった見方をすれば、教育研究評議会に学外者の理事を入れることも可能でしょう(もちろん外部の意見も大切ですが)。

理事そのものは「総長が第7条に定める経営協議会及び第8条に定める教育研究評議会の意見を聴いて、任命する」(京大の組織に関する規程第3条4項)とありますが、(2023年4月1日からは総合生存学館を除きますが)学部長や研究科長の専任には教授会の議を「踏まえ」る一方、理事は意見を「聴いて」選任される、この表現の違いは何を意味するのでしょうか……

さて、2については、副学長の定義が問題かなと思いました。副学長は「法人の理事又は職員をもって充てる」(京大の組織に関する規程第13条2項)とともに「副学長は、総長が任命する」(京都大学副学長に関する規程)ようです。とはいえ、「副学長は、経営協議会及び教育研究評議会に出席することができる。ただし、表決に加わることはできない」(京都大学副学長に関する申し合わせ)ですが。要はこれもうがった見方をすれば総合生存学館長に、総長お好みの(理事兼)副学長を充てることができるかもしれません。

何はともあれ、学部自治、教授会自治(≠学問の自由)が守られてきた京都大学にあっては一つの契機をなすかもしれません。なんだか徐々に総長に権限が集まっているような気がしなくもないです。因みに、教授会自治と学問の自由の関係については、拙ブログの「

sciolist1929.hatenablog.com

大経済学部助教授(当時)堀江英一による瀧川幸辰への公開批判」も併せてご参照ください。

とはいえ、記事によると京大側も、総合生存学館の特徴たる「分野横断的な研究力」を伸暢させるために、主体的かつ全学的な協力体制が必要だと回答したようで、総合生存学館の位置づけがその他の学部や研究科と比べてやや特殊であることに起因するのかもしれません。

これ以上はやめておきます。京都大学新聞社さま、良記事をごちそうさまでした。