井上寿一『矢部貞治:知識人と政治』(中央公論新社、2022年)読了。苦しかったです。
文字通り、矢部の生涯を追った作品です。矢部の一生を知るには手ごろかもしれません。
以上です。
以下思ったことをつらつらと書いていきます。いちいち該当箇所は明示しませんので批判としては妥当性を欠くでしょうが「感想」としてお読みくださればと思います。
そもそも、「あとがき」で、矢部が自らに憑依すると書くほど矢部に憧れる筆者の筆致は矢部贔屓で、客観的な評価を下せているとは思いません。また、順接でつないでいるにもかかわらず順接に値しない独断的な推測が非常に多いです。
全体としては先行研究や『矢部日記』などの公刊史資料を要約しただけで、矢部の思想や行動を内在的に考察した部分はついぞ見当たりませんでした。戦前はカーを翻訳、戦後はリップマンを翻訳していることなどなど考察すべきところは山ほどあると思います。結局は、政治にコミットすることを知識人の使命と考える筆者の理想の上塗りでしょう。
内容批判はこれくらいにして、こんな本をだす天下の中央公論新社さまにも複雑な心境です。あとがきを読む限り企画化および(おそらく)編集の担当をなさっている方は敏腕で知られる方ですし、そんな方があんな平板な内容を見抜けなかったとは思えません。
帯を見ても「保守を革新する」とあり、ズレていますね。
以上です。